インフルエンサーのキャスティング③候補者のスクリーニング

インフルエンサーのキャスティングにおいて、候補者のスクリーニングは施策の成否を分ける重要なプロセスです。
フォロワー数だけでなく、エンゲージメントの質やフォロワー属性、過去の実績などを多角的に分析し、自社のブランドに最適な人材を見極める必要があります。
本記事では、具体的なスクリーニング項目を解説します。
インフルエンサーのキャスティングの流れを確認したい場合はこちらの記事をご覧ください。
エンゲージメント率の確認
エンゲージメント率は、インフルエンサーの影響力を測る重要な指標です。
単にいいね数を見るだけでなく、投稿への反応の質や安定性を評価することが重要です。
いいね以外の指標も考慮し、総合的にファンの熱量を分析することで、より実態に近い影響力を把握できます。
ここでは具体的な確認方法を解説します。
過去投稿の平均いいね・コメント率を比較
インフルエンサーの影響力を測る第一歩は、過去の投稿における平均エンゲージメント率を算出することです。
直近1〜3ヶ月の投稿から「いいね数」と「コメント数」を合計し、フォロワー数で割ることで、おおよそのエンゲージメント率が把握できます。
この数値を他の候補者や業界平均と比較検討し、相対的な影響力を評価します。
フォロワー数が多くてもエンゲージメント率が極端に低い場合、実質的な影響力は限定的である可能性があります。
項目 | インフルエンサーA | インフルエンサーB |
---|---|---|
フォロワー数 | 100,000人 | 30,000人 |
平均いいね数 | 1,000件 | 1,500件 |
エンゲージメント率 | 1.0% | 5.0% |
上記の場合、フォロワー数はAが多いですが、エンゲージメント率ではBが優れており、より熱量の高いファンを抱えていると推測できます。
エンゲージメント率の推移を見て安定性を評価
特定の投稿だけが突出して高いエンゲージメントを獲得している「バズ」は、そのインフルエンサーの実力を正確に反映しているとは限りません。
重要なのは、安定して高いエンゲージメントを維持できているかです。
過去数ヶ月間のエンゲージメント率の推移をグラフなどで可視化し、大きな落ち込みがないか、あるいは上昇傾向にあるかを確認しましょう。
安定した推移は、コンテンツの質が一定であり、フォロワーとの間に強固な関係が築けている証拠です。
逆に、特定の投稿以外が極端に低い場合は、フォロワーの興味関心が薄れている可能性も考えられます。
いいね以外のエンゲージメント(保存、シェア、ビュー)も含める
エンゲージメントは「いいね」だけではありません。
特に「保存」は、ユーザーが後で見返したいと思うほど有益な情報だと感じた証であり、非常に質の高いエンゲージメントと言えます。
また、「シェア」は他者に勧めたいという共感の現れであり、情報の拡散に直結します。
動画投稿であれば、再生回数(ビュー)も重要な指標です。
これらの数値をインフルエンサーに開示してもらい、総合的に分析することで、より深くファンの熱量やコンテンツの価値を評価することができます。
いいね数に惑わされず、多角的な視点を持つことが重要です。
フォロワー属性の分析
インフルエンサーのフォロワーが、自社のターゲット顧客と一致しているかを確認することは極めて重要です。
どんなにエンゲージメント率が高くても、ターゲット層に情報が届かなければ意味がありません。
年代や性別、居住地といったデモグラフィック情報から、ファンの興味関心までを深く分析し、ミスマッチを防ぎましょう。
年代・性別の割合がターゲットと一致するか
インフルエンサーマーケティングを成功させるには、インフルエンサーのフォロワー層が自社のターゲット顧客(ペルソナ)と一致していることが大前提です。
インフルエンサー本人に依頼すれば、Instagramのインサイト機能などから、フォロワーの年代・性別の割合データを提供してもらえます。
例えば、20代女性向けのコスメをPRする場合、インフルエンサーのフォロワーも20代女性が中心であることが理想です。
このデータを確認し、自社のターゲット層とどれだけ重なっているかを定量的に評価しましょう。
ここがずれていると、期待する効果は得られません。
地域・居住地が自社の販路・商圏に合っているか
実店舗への来店促進や、特定の地域限定のサービスを告知する場合、フォロワーの地域情報は非常に重要になります。
インフルエンサーのインサイトデータから、フォロワーがどの都道府県や市区町村に多いかを確認しましょう。
例えば、東京の美容室が大阪在住のフォロワーが多いインフルエンサーを起用しても、実際の来店には繋がりにくいでしょう。
自社の商圏とフォロワーの居住地が合致しているかを見極めることで、より費用対効果の高い施策の実現が可能になります。
グローバル展開している場合は、国別のデータも確認が必要です。
フォロワーのアクティブ時間帯(閲覧時間帯)を把握
フォロワーが最もアクティブな時間帯に投稿することは、エンゲージメントを最大化する上で重要な戦略です。
インフルエンサーのインサイトでは、フォロワーが何曜日の何時頃に最もInstagramを利用しているかを確認できます。
例えば、ターゲットが社会人であれば平日の夜や通勤時間帯、主婦層であれば平日の昼間がアクティブな傾向にあります。
このデータを事前に把握し、最も見られやすいタイミングでPR投稿をしてもらうよう依頼することで、投稿の効果を最大限に引き出すことができます。
インフルエンサー選定の段階でこの視点も持っておくと良いでしょう。
投稿内容・トーンのチェック
定量的なデータ分析と合わせて、投稿の質や世界観といった定性的な側面の確認も欠かせません。
インフルエンサーの投稿スタイルがブランドイメージと合致しているか、コンテンツの質は高いかなどをチェックします。
ブランドとの親和性が低いと、フォロワーに違和感を与え、PR効果が薄れてしまうため、慎重な見極めが必要です。
ブランド/商品の世界観と一致しているか
インフルエンサーの投稿全体の雰囲気や価値観が、自社のブランドイメージや商品の世界観と調和しているかは、非常に重要な選定基準です。
例えば、オーガニックでナチュラルなイメージのスキンケアブランドが、派手でラグジュアリーなライフスタイルを発信するインフルエンサーを起用すると、フォロワーは強い違和感を覚えるでしょう。
過去の投稿を十分に確認し、写真の撮り方、色使い、文章のトーン、紹介している他の商品などを通して、ブランドとの親和性を慎重に判断してください。
世界観が一致していれば、PR投稿も自然に受け入れられます。
普段から投稿するコンテンツの質と種類(静止画・動画・ストーリー等)
コンテンツのクオリティは、インフルエンサーのクリエイティブ能力とプロ意識を測る指標です。
写真の構図や画質は美しいか、動画は視聴者を引き込む編集がされているかなど、クリエイティブの質を細かくチェックしましょう。
また、キャンペーンで活用したいフォーマット(例:リール動画、ストーリーズ)での投稿実績が豊富かも確認すべき点です。
静止画が得意なインフルエンサーに動画制作を依頼しても、期待するクオリティに満たない可能性があります。
制作したいクリエイティブの種類と、インフルエンサーの得意分野が一致しているかを見極めましょう。
投稿頻度と更新の一貫性
投稿頻度は、インフルエンサーの活動の熱心さや、フォロワーとの関係性を維持する意欲を示します。
定期的に一貫したテーマで投稿しているインフルエンサーは、フォロワーからの信頼も厚く、エンゲージメントも安定しやすい傾向にあります。
一方で、投稿が不定期であったり、数ヶ月間更新が途絶えているような場合は注意が必要です。
フォロワーの関心が離れてしまっている可能性や、案件に対する責任感が低い可能性も考えられます。
安定して活動しているインフルエンサーを選ぶことで、キャンペーン期間中もスムーズな進行が期待できます。
過去の案件実績
過去のPR案件の実績は、そのインフルエンサーが企業案件に対してどのように取り組み、どのような成果を出してきたかを示す直接的な証拠です。
単に経験数だけでなく、類似ジャンルでの実績や、その際の具体的な成果を確認することで、自社案件を任せられる信頼性があるかを判断します。
プロとしての仕事ぶりも重要な評価ポイントです。
PR案件の経験数とその成果(エンゲージメント、売上等)
インフルエンサーのプロフィールや過去の投稿から、これまでにどのような企業とタイアップしてきたかを確認しましょう。
可能であれば、メディアキット(媒体資料)の提出を依頼し、過去のPR案件でどのような成果(エンゲージメント数、クリック数、購入転換率など)を出したかの実績データを見せてもらうのが理想です。
実績豊富なインフルエンサーは、企業側の意図を汲み取り、効果的なPR投稿を制作するノウハウを持っています。
特に、具体的な数値で成果を示せるインフルエンサーは、信頼性が高いと言えるでしょう。
類似ジャンルでの実績の有無
自社の商品やサービスと類似するジャンルでのPR実績があるかは、特に重要な確認項目です。
例えば、コスメブランドであれば美容系、ガジェットであればテクノロジー系のPR実績があるインフルエンサーが望ましいでしょう。
類似ジャンルでの実績があれば、その分野に関する専門知識やフォロワーからの信頼が既に構築されており、PR投稿もより自然で説得力のあるものになります。
全く関連性のないジャンルのPRばかり行っている場合、フォロワーから「案件ばかり」という印象を持たれている可能性もあるため注意が必要です。
案件の進行プロセスでのプロフェッショナリズム(納期・内容の忠実さ等)
インフルエンサーも一人のビジネスパートナーです。
契約や施策の進行において、プロとして信頼できるかどうかを見極める必要があります。
過去に案件を依頼したことのある企業の評判を調べたり、最初の問い合わせへの返信速度や丁寧さ、依頼内容への理解度などから、その仕事ぶりを推し量ることができます。
納期を守る、レギュレーションを遵守する、報告・連絡・相談を怠らないといった、基本的なビジネスマナーが備わっているかを確認することは、円滑なプロジェクト進行のために不可欠です。
炎上リスク・信頼性の確認
インフルエンサーを起用する上で、ブランドイメージを損なうリスクを事前に回避することは絶対条件です。
過去の言動やトラブルの有無を調査し、ブランドの価値観と相容れない要素がないかを徹底的に確認する必要があります。
フォロワーの質も含め、信頼できる人物かしっかりと見極めましょう。
この工程を怠ると、企業の評判に傷がつく可能性があります。
過去に炎上・トラブル歴がないかの調査
インフルエンサーの過去の投稿や、SNS上での発言を遡って確認し、炎上やトラブルの原因となるような不適切な内容がなかったかを調査します。
差別的な発言、他人を誹謗中傷するような投稿、ステルスマーケティングを疑われるような行為などが過去にあれば、将来的にブランドイメージを毀損するリスクとなります。
インフルエンサーの名前やアカウント名で検索し、ネガティブな情報が出てこないかを確認することも重要です。
少しでも懸念点があれば、起用は見送るのが賢明な判断と言えるでしょう。
フォロワー買い・偽のリアクションの疑いがないか確認
フォロワー数やいいね数を購入し、人気を偽装しているインフルエンサーも存在します。
このようなインフルエンサーを起用しても、実質的なPR効果は全くありません。
フォロワー買いを見抜くには、フォロワー数に対してエンゲージメント率が極端に低い、コメントが外国語や定型文ばかり、フォロワーのプロフィールが不自然(アイコンがない、投稿がゼロなど)といった点を確認します。
フォロワー数の急激な増減も不審な兆候です。
専用の分析ツールを使って、フォロワーの質をチェックすることも有効な手段です。
発言や価値観が公序良俗・ブランドポリシーに合致しているか
インフルエンサーが発信するメッセージや価値観が、自社のブランドポリシーや社会の倫理観と合致しているかを確認することは、炎上リスクを避ける上で不可欠です。
政治的・宗教的に偏った発言や、過度に攻撃的な物言い、差別を助長するような価値観が見られる場合、提携することでブランドも同様のイメージを持たれかねません。
インフルエンサーの普段の投稿内容をよく観察し、その人となりや思想が、ブランドの代弁者としてふさわしいかを慎重に判断する必要があります。
企業の社会的責任(CSR)の観点からも重要なチェック項目です。
コミュニケーションの柔軟性
施策を成功に導くためには、インフルエンサーとの円滑なコミュニケーションが不可欠です。
単なる「広告塔」ではなく「共創パートナー」として、建設的なやり取りができる相手かを見極めることが重要になります。
依頼に対する反応の速さや、提案への姿勢などから、協力して良いものを作り上げていける相手かどうかを判断しましょう。
フィードバックや修正依頼に対する対応の速さ
キャンペーンを円滑に進めるためには、迅速で丁寧なコミュニケーションが欠かせません。
選定段階でのメールやDMのやり取りは、そのインフルエンサーのコミュニケーションスタイルを判断する絶好の機会です。
問い合わせへの返信は早いか、投稿内容の下書きに対するフィードバックや修正依頼に素直に対応してくれるか、といった点を確認しましょう。
レスポンスが遅かったり、修正依頼に不満を示すような態度は、将来的なトラブルの予兆かもしれません。
気持ちよく連携できるパートナーを選ぶことが、施策成功の鍵となります。
契約内容・投稿内容事前確認に対する態度
プロフェッショナルなインフルエンサーは、契約の重要性を理解しており、投稿内容の事前確認にも協力的です。
契約書の内容をしっかりと読み、不明点を質問してくるか、あるいは逆に内容を軽視していないか、その態度を観察しましょう。
また、薬機法や景品表示法などの関連法規を遵守するため、企業側が投稿内容を事前に確認するのは当然のプロセスです。
この事前確認を嫌がったり、修正指示を聞き入れなかったりするインフルエンサーは、リスク管理の意識が低い可能性があり、避けるべきでしょう。
アイデア提案力や協働提案を受け入れる姿勢
優れたインフルエンサーは、ただ依頼された内容をこなすだけではありません。
自身のフォロワーに最も響く見せ方を熟知しており、より効果的なPRにするためのアイデアを提案してくれることがあります。
「こういう企画はどうですか?」「この方が写真映えします」といった提案を積極的にしてくれるインフルエンサーは、非常に頼もしいパートナーです。
また、企業側からの協働提案(例:ライブ配信での共演、イベントへの登壇など)にも前向きな姿勢を示すかどうかも、良好な関係を築けるかどうかの指標になります。
まとめ
インフルエンサーのスクリーニングは、フォロワー数という一面的な指標だけでなく、エンゲージメントの質、フォロワー属性との一致、コンテンツの親和性、過去の実績、そして信頼性やコミュニケーション能力といった多角的な視点で行うことが成功の鍵です。
これらの項目を一つひとつ丁寧にチェックし、ブランドにとって最適なパートナーを見極めることで、インフルエンサーマーケティングの効果を最大化し、リスクを最小限に抑えることができます。