インフルエンサーマーケティングの注意点|担当者が知っておくべきこと
インフルエンサーマーケティングは、企業の認知度向上や売上拡大に大きな効果が期待できる一方、注意すべき点も数多く存在します。
本記事では、施策を成功に導くために担当者が知っておくべき注意点を、企画から運用後までのフェーズごとに網羅的に解説します。
炎上などのリスクを回避し、効果を最大化するためのポイントをしっかり押さえて、戦略的なインフルエンサーマーケティングを実践しましょう。
インフルエンサーマーケティングを始める前に知るべき基本的な注意点
インフルエンサーマーケティングを成功させるには、事前の準備が不可欠です。
施策を開始する前に、目的の明確化、ターゲットの具体化、法規制の確認、そして効果測定の設計まで、土台となる基本的な注意点を押さえておく必要があります。
これらの準備を怠ると、期待した効果が得られないばかりか、思わぬトラブルに繋がる可能性もあるため、慎重に進めましょう。
- 目的(KGI・KPI)を明確に設定する
- ターゲット層とペルソナを具体化する
- インフルエンサーマーケティングの種類と特徴を理解する
- 施策にかかる費用と予算を把握する
- 社内ガバナンスとチェック体制を整える(法務・薬事・広報の合意)
- ブランドセーフティとDE&I配慮(差別・ハラスメント・文化的感受性)
- 計測設計(UTM・ディープリンク・ピクセル)の事前準備
目的(KGI・KPI)を明確に設定する
インフルエンサーマーケティングを始める前に、まず「何のために実施するのか」という目的を明確にすることが重要です。
最終的な目標であるKGI(重要目標達成指標)と、そこに至るまでの中間指標であるKPI(重要業績評価指標)を具体的に設定しましょう。
例えば、KGIを「ECサイト経由の売上30%向上」と置いた場合、KPIには「キャンペーンサイトへの遷移数1万件」「クーポンコード利用数500件」「指名検索数20%増加」などが考えられます。
目的が曖昧なままでは、インフルエンサーの選定や企画内容がブレてしまい、施策後の効果測定も正しく行えません。
具体的な数値を設定することで、関係者全員が同じゴールに向かって進むことができます。
ターゲット層とペルソナを具体化する
誰に商品を届けたいのか、ターゲット層を具体化し、さらにその人物像であるペルソナを設定することが重要です。
年齢、性別、居住地といったデモグラフィック情報だけでなく、ライフスタイル、価値観、消費行動、SNSの利用動向など、より詳細なペルソナを描きましょう。
例えば「都内在住の30代前半、子育て中の女性で、オーガニックコスメに関心が高い」といった具体的な人物像を設定します。
ペルソナが明確であればあるほど、そのペルソナに影響力を持つインフルエンサーは誰なのか、どのようなコンテンツが心に響くのかが判断しやすくなります。
この工程が、施策の成否を分ける最初の分岐点となります。
インフルエンサーマーケティングの種類と特徴を理解する
インフルエンサーマーケティングには様々な種類があり、それぞれ特徴や期待できる効果が異なります。
代表的な手法として、商品を無償で提供し、インフルエンサーの自由な感想を投稿してもらう「ギフティング」、報酬を支払い、企業の意向に沿った投稿を作成してもらう「タイアップ投稿」、ライブ配信で商品を販売する「ライブコマース」などがあります。
認知度向上ならタイアップ投稿、UGC(ユーザー生成コンテンツ)の創出ならギフティング、直接的な売上向上ならライブコマースといったように、設定した目的に合わせて最適な手法を選択することが重要です。
各手法のメリット・デメリットを理解し、自社の商材や予算に合ったものを選びましょう。
施策にかかる費用と予算を把握する
インフルエンサーマーケティングにかかる費用は、インフルエンサーへの報酬だけではありません。
企画・ディレクションを代理店に依頼する場合の手数料、投稿をさらに拡散させるための広告費用、イベント開催費、商品の発送費など、付随するコストも多岐にわたります。
インフルエンサーへの報酬は、フォロワー数に応じた「フォロワー単価」で計算されることが多いですが、エンゲージメント率や専門性によっても変動します。
事前に総額でどれくらいの費用がかかるのかを算出し、予算を確保することが大切です。
費用対効果(ROI)を意識し、限られた予算の中で最大の成果を出すための計画を立てましょう。
社内ガバナンスとチェック体制を整える(法務・薬事・広報の合意)
インフルエンサーの投稿内容は、企業の公式な発信と同様に扱われるため、公開前に社内の関連部署によるチェックが不可欠です。
特に、法務部門による景品表示法や特定商取引法などの法律への準拠確認、薬事部門による薬機法や健康増進法に抵触する表現がないかの確認は徹底して行いましょう。
また、万が一の炎上リスクに備え、広報部門との連携体制を構築しておくことも重要です。
誰が、どのタイミングで、何をチェックするのかというフローを明確に定め、関係部署の合意を得ておくことで、コンプライアンス違反やブランドイメージの毀損といったリスクを未然に防ぐことができます。
ブランドセーフティとDE&I配慮(差別・ハラスメント・文化的感受性)
ブランドセーフティとは、企業のブランドイメージが損なわれるような不適切なコンテンツやコンテキストからブランドを守る取り組みです。
インフルエンサーの投稿が、意図せず差別的・排他的な表現や、特定の個人・集団を傷つけるハラスメントと受け取られることがないよう、細心の注意を払う必要があります。
また、多様性(Diversity)、公平性(Equity)、包括性(Inclusion)を意味するDE&Iの観点も重要です。
多様な価値観を尊重し、文化的感受性を持ってクリエイティブを制作することで、より多くの人々に受け入れられるだけでなく、企業の社会的責任を果たすことにも繋がります。
企画段階でこれらの視点を盛り込むことが大切です。
計測設計(UTM・ディープリンク・ピクセル)の事前準備
施策の効果を正確に測定するためには、投稿が公開される前の準備が欠かせません。
ウェブサイトへの流入を計測するためには、URLに「UTMパラメータ」という識別子を付与し、どのインフルエンサーの、どの投稿からアクセスがあったのかを分析できるようにしておきましょう。
また、アプリの特定ページにユーザーを直接遷移させたい場合は「ディープリンク」の設定が必要です。
さらに、ウェブサイト上でのコンバージョン(購入や会員登録など)を計測するために「計測ピクセル」を設置しておくことも重要です。
これらの計測設計を事前に行うことで、施策の貢献度を定量的に評価し、次回の改善に繋げることができます。
【企画編】インフルエンサーマーケティングにおけるインフルエンサー選定の注意点
インフルエンサーマーケティングの成否は、インフルエンサー選定で決まると言っても過言ではありません。
単にフォロワー数が多いだけでなく、自社のターゲット層とフォロワー層が一致しているか、エンゲージメント率は高いか、ブランドイメージと世界観が合っているかなど、多角的な視点で見極める必要があります。
過去の言動なども含め、慎重に選定することで、ミスマッチや炎上リスクを防ぎましょう。
- フォロワー数だけでなくエンゲージメント率を確認する
- フォロワーの属性がターゲット層と一致しているか分析する
- インフルエンサーの世界観がブランドイメージと合っているか見極める
- 過去の投稿内容や言動をチェックしリスクを回避する
- 偽フォロワー・不正エンゲージメント(購入/エンゲポッド)の検知
- 地域・言語・年齢などフォロワー分布の適合性
- 直近の案件露出量と「案件感」の有無を確認する
- 事務所所属/個人の違いと連絡・運用体制の安定性
フォロワー数だけでなくエンゲージメント率を確認する
インフルエンサー選定において、フォロワー数は重要な指標の一つですが、それ以上にエンゲージメント率を重視する必要があります。
エンゲージメントとは、投稿に対する「いいね」「コメント」「保存」などのユーザーからの反応のことです。
フォロワー数が多くても、投稿への反応が少なければ、それはフォロワーとの関係性が希薄であったり、熱心なファンが少なかったりすることを示します。
エンゲージメント率が高いインフルエンサーは、フォロワーからの信頼が厚く、投稿内容が届きやすい傾向にあります。
少なくとも直近10投稿ほどのエンゲージメント率を算出し、その数値の質を評価することが重要です。
フォロワーの属性がターゲット層と一致しているか分析する
起用するインフルエンサーのフォロワー層が、自社の商品やサービスが狙うターゲット層と一致しているかを確認することは、極めて重要です。
例えば、20代女性向けのコスメをPRする場合、インフルエンサー自身の年齢が20代でも、フォロワーの多くが30代男性であれば、期待する効果は得られません。
インフルエンサー本人に依頼して、Instagramのインサイトなどでフォロワーの年齢、性別、地域などのデモグラフィックデータを提供してもらいましょう。
フォロワーの属性を正確に分析し、ターゲット層との重なりが大きいインフルエンサーを選ぶことで、施策の効果を最大化することができます。
インフルエンサーの世界観がブランドイメージと合っているか見極める
インフルエンサーが持つ独自の世界観や投稿のトーン&マナーが、自社のブランドイメージや価値観と合致しているかを見極めることが重要です。
たとえフォロワー層がターゲットと一致していても、ブランドイメージとインフルエンサーの世界観が乖離していると、フォロワーに違和感を与え、PR効果が薄れてしまいます。
例えば、高級感や上質さを重視するブランドが、面白さや親しみやすさを売りにするインフルエンサーを起用すると、ブランドイメージを損なう恐れがあります。
過去の投稿を十分に確認し、そのインフルエンサーが持つ雰囲気や価値観が、自社ブランドのメッセージを代弁するのにふさわしいかを慎重に判断しましょう。
過去の投稿内容や言動をチェックしリスクを回避する
インフルエンサーを起用する前に、過去のSNS投稿や公の場での言動を必ずチェックし、潜在的なリスクがないかを確認しましょう。
過去に差別的な発言、他人を誹謗中傷する投稿、公序良俗に反する行為などがあった場合、たとえ現在は問題なくとも、後から掘り起こされて炎上し、起用した企業のブランドイメージまで傷つく可能性があります。
特に、社会的な問題に対する考え方や、コンプライアンス意識は重要なチェックポイントです。
ツールを使ったスクリーニングや、エゴサーチなどを通じて、ネガティブな情報がないかを徹底的に調査し、ブランドを危険に晒すリスクを未然に回避することが企業の責任として求められます。
偽フォロワー・不正エンゲージメント(購入/エンゲポッド)の検知
フォロワー数やエンゲージメントは、ツールなどを使って不正に水増しされている場合があります。
フォロワーを購入していたり、「エンゲージメントポッド」と呼ばれるグループ内で相互に「いいね」やコメントを付け合ったりしているインフルエンサーを起用しても、実質的なリーチや影響力は期待できません。
偽フォロワーの兆候としては、フォロワー数が短期間で不自然に急増している、海外のアカウントや非アクティブなアカウントの割合が異常に高い、などが挙げられます。
また、コメントの内容が投稿と無関係な定型文ばかりである場合も注意が必要です。
専用の分析ツールを活用して、フォロワーの質やエンゲージメントの健全性を確認することが重要です。
地域・言語・年齢などフォロワー分布の適合性
アプローチしたい市場が明確な場合は、インフルエンサーのフォロワーがその市場と一致しているかを確認する必要があります。
例えば、日本国内の特定地域(例:大阪)での店舗集客を目的とする場合、インフルエンサーのフォロワーが大阪やその近隣に多く分布していることが重要です。
また、海外市場を狙うのであれば、その国の言語を話し、その国に多くのフォロワーを持つインフルエンサーを起用しなければなりません。
フォロワーの年齢層も同様で、若者向けの商品であれば、フォロワーも若年層が中心であるべきです。
インサイトデータでこれらの分布を確認し、施策の目的とフォロワーの属性が適合しているかをしっかり見極めましょう。
直近の案件露出量と「案件感」の有無を確認する
インフルエンサーの投稿をチェックする際は、直近のPR案件の頻度にも注目しましょう。
PR投稿の割合が極端に高いインフルエンサーは、フォロワーから「案件ばかりで信頼できない」「宣伝色が強くて参考にならない」と思われている可能性があります。
このような「案件感」が強いアカウントでは、たとえ商品を紹介してもらっても、フォロワーの心に響きにくく、十分な効果が得られないことがあります。
理想的なのは、自身のオーガニックな(自然な)投稿の中に、PR案件が自然に溶け込んでいるインフルエンサーです。
普段の投稿から商品やサービスへの愛情が感じられるか、自身の言葉で語っているかなど、投稿の質もあわせて確認しましょう。
事務所所属/個人の違いと連絡・運用体制の安定性
インフルエンサーには、事務所(MCN)に所属している人と、個人で活動している人がいます。
両者の違いを理解し、どちらが自社の施策に適しているかを検討しましょう。
事務所所属の場合、契約や進行管理、レポーティングなどがスムーズで、トラブル時の対応も期待できる一方、仲介手数料が発生することがあります。
個人で活動している場合は、直接コミュニケーションが取れるため柔軟な対応が期待でき、費用を抑えられる可能性がありますが、契約交渉や進行管理に手間がかかることもあります。
どちらを選ぶにせよ、連絡がスムーズに取れ、安定した運用体制が築ける相手かどうかを見極めることが重要です。
項目 | 事務所所属インフルエンサー | 個人(フリーランス)インフルエンサー |
---|---|---|
メリット | 契約や進行がスムーズ、品質管理やリスク対応が期待できる | 直接交渉できるため柔軟性が高い、費用を抑えられる可能性がある |
デメリット | 仲介手数料が発生する、コミュニケーションに時間がかかる場合がある | 契約や進行管理に手間がかかる、トラブル対応に不安が残る場合がある |
【依頼編】インフルエンサーマーケティングで失敗しないための契約における注意点
インフルエンサーへの依頼から契約締結までのフェーズは、後のトラブルを防ぐために最も重要な過程です。
投稿内容、報酬、二次利用の範囲といった条件を曖昧にせず、すべてを書面で明確に合意することが不可欠です。
ここでは、契約時に必ず確認・明記すべき注意点を解説し、企業とインフルエンサー双方にとって公平で円滑な取引を実現するためのポイントを押さえます。
- 依頼内容と投稿のクリエイティブを明確にする
- 報酬の金額と支払い条件を書面で合意する
- 制作されたコンテンツの二次利用範囲を定めておく
- 必ず業務委託契約書を締結する
- 修正回数・校正フロー・納期遅延時の取り決め
- 競合排他(クーリング期間)とNGカテゴリの明文化
- キャンセル/差替/再投稿ポリシーと緊急時の削除条件
- 費用項目の内訳(制作費・交通費・素材費・機材費)
- 成果報酬(アフィリエイト/クーポン)と計測条件
- 守秘義務・個人情報の取扱い・情報セキュリティ
- 税務・インボイス対応(支払手続・書式・源泉の有無)
- 二次利用の条件詳細(期間・媒体・地域・肖像権・クレジット)
依頼内容と投稿のクリエイティブを明確にする
インフルエンサーに依頼する際は、何をしてほしいのかを具体的かつ明確に伝えることが重要です。
紹介する商品やサービスの特徴、最も伝えたいメッセージ、投稿に含めてほしいハッシュタグやメンション、リンク先URLなどをまとめたオリエンテーションシート(ブリーフ)を用意しましょう。
一方で、インフルエンサーの創造性を尊重することも大切です。
表現を過度に縛りすぎると、その人らしさが失われ、フォロワーに響かない「やらされている感」のある投稿になってしまいます。
「必ず含めてほしい要素(MUST)」と「避けてほしい表現(NG)」を明確に伝えつつ、クリエイティブの方向性は協議の上で決定するのが理想的です。
報酬の金額と支払い条件を書面で合意する
報酬に関するトラブルは非常に多いため、金額、支払いサイト(締め日と支払日)、支払い方法(銀行振込など)を必ず書面で合意しましょう。
報酬形態には、投稿1回あたりの固定報酬、再生回数などに応じた変動報酬、売上の一部を還元する成果報酬などがあります。
どの形態を採用するのか、金額は税込みか税抜きか、源泉徴収の有無なども明確にしておく必要があります。
インフルエンサーが個人の場合は、インボイス制度への対応状況も事前に確認が必要です。
口約束は避け、契約書や発注書といった形で双方が納得した上で、正式に依頼を進めるようにしてください。
制作されたコンテンツの二次利用範囲を定めておく
インフルエンサーが制作した投稿(写真、動画、テキストなど)の著作権は、原則としてインフルエンサー本人に帰属します。
そのため、企業がその投稿を自社のSNSアカウントで再投稿したり、ウェブサイトや広告、店頭POPなどで使用(二次利用)したりする場合は、別途許諾が必要です。
契約時に、二次利用の可否、利用可能な媒体(Web、印刷物など)、利用期間、利用地域などを具体的に定め、合意しておく必要があります。
無断で二次利用すると著作権侵害となり、大きなトラブルに発展する可能性があります。
二次利用の範囲によって報酬額も変動するため、事前に利用目的を明確にし、適切な条件で契約を結びましょう。
必ず業務委託契約書を締結する
インフルエンサーとの取引では、口約束やメールだけのやり取りで済ませず、必ず業務委託契約書を締結しましょう。
契約書は、これまでに挙げた依頼内容、報酬、二次利用の範囲といった合意事項を法的な効力を持つ形で記録し、双方の権利と義務を明確にするためのものです。
これにより、「言った、言わない」といった後のトラブルを防ぐことができます。
契約書には、秘密保持義務や損害賠償に関する条項なども盛り込むのが一般的です。
契約書のひな形がない場合は、代理店に相談するか、法務担当者や弁護士に作成を依頼するなどして、企業としてリスク管理を徹底する姿勢が重要です。
修正回数・校正フロー・納期遅延時の取り決め
投稿が公開されるまでの制作進行に関するルールも、事前に明確にしておくべきです。
企業側からの投稿内容の修正依頼は何回まで可能か、その際の連絡手段や返答期限はどうするか、といった校正フローを具体的に決めておきましょう。
これにより、制作がスムーズに進み、不要な手戻りを防げます。
また、万が一インフルエンサーの都合で投稿の納期が遅れた場合に、どのような対応(報酬の減額など)を取るのかも事前に合意しておくと、トラブルを避けやすくなります。
お互いが気持ちよく仕事を進めるために、現実的なスケジュールと進行管理のルールを設定することが大切です。
競合排他(クーリング期間)とNGカテゴリの明文化
自社のPR投稿期間中やその前後に、インフルエンサーが競合他社の商品を紹介してしまうと、PR効果が薄れてしまいます。
これを防ぐため、契約に「競合排他条項」を盛り込むことが一般的です。
具体的には、契約期間中および契約終了後一定期間(クーリング期間)、特定の競合他社や競合製品のPR投稿を行わないように定めます。
どこまでを競合とみなすのか、具体的な企業名や商品カテゴリをリストアップして明文化することが重要です。
また、アダルトやギャンブルなど、ブランドイメージの観点から関連付けてほしくないNGカテゴリについても、事前に伝えておきましょう。
キャンセル/差替/再投稿ポリシーと緊急時の削除条件
予期せぬ事態に備え、投稿のキャンセルや内容の差し替え、再投稿に関するルールも定めておく必要があります。
例えば、投稿内容に事実誤認があった場合や、投稿後に商品に不具合が見つかった場合など、どのような条件下で投稿の修正や削除を依頼できるのかを明確にしておきましょう。
また、インフルエンサー側の都合で投稿がキャンセルになった場合の対応や、企業側の都合で依頼をキャンセルする場合のキャンセル料についても取り決めておくことが望ましいです。
特に、社会情勢の変化やブランドに関するネガティブな事象が発生した際など、緊急で投稿を削除してもらう必要がある場合の連絡フローと条件も合意しておくと安心です。
費用項目の内訳(制作費・交通費・素材費・機材費)
インフルエンサーに支払う報酬の内訳を明確にすることも、トラブル防止に繋がります。
報酬が、投稿の対価である「稼働費」だけでなく、動画編集などの「制作費」、撮影場所への「交通費」、撮影で使用する小道具などの「素材費」、特殊なカメラなどの「機材費」を含むのかどうかを、事前に確認し、合意形成しておくべきです。
特に、遠方での撮影や、大掛かりな企画を実施する場合には、これらの諸経費が高額になる可能性があります。
どこまでが報酬に含まれ、どこからが実費精算となるのか、その上限額や精算方法なども含めて、契約書や発注書に明記するようにしましょう。
成果報酬(アフィリエイト/クーポン)と計測条件
成果報酬型(アフィリエイト)の契約形態を取る場合は、成果の定義と計測方法を厳密に定める必要があります。
「成果」とは何を指すのか(商品の購入、アプリのインストール、会員登録など)、その成果をどのように計測するのか(専用のアフィリエイトリンクやクーポンコードの使用など)を明確に合意します。
また、成果の承認条件(キャンセルや返品は対象外とするなど)や、報酬のレポート方法、支払いサイクルなども具体的に取り決めておくことが重要です。
計測システムに不具合があった場合の対応なども含め、双方が納得できる公平な条件を設定しないと、後々インフルエンサーとの信頼関係を損なう原因になりかねません。
守秘義務・個人情報の取扱い・情報セキュリティ
インフルエンサーには、発売前の新商品情報や、一般には公開されていないキャンペーン情報など、企業の機密情報を提供することがあります。
そのため、契約書には必ず「守秘義務条項」を盛り込み、依頼を通じて知り得た情報を第三者に漏洩したり、目的外で使用したりしないことを約束してもらう必要があります。
また、インフルエンサーの連絡先や本名などの個人情報を取り扱う際には、自社のプライバシーポリシーに則り、適切に管理しなければなりません。
情報のやり取りはセキュリティが確保された方法で行うなど、情報漏洩のリスク管理を徹底することが、企業としての信頼性を保つ上で不可欠です。
税務・インボイス対応(支払手続・書式・源泉の有無)
経理処理を円滑に進めるため、税務に関する取り決めも事前に行いましょう。
2023年10月から開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)に対応しているインフルエンサー(課税事業者)かどうかを確認し、対応している場合は適格請求書発行事業者登録番号を提出してもらう必要があります。
また、インフルエンサーが個人の場合、支払う報酬は源泉徴収の対象となることが多いため、源泉徴収を行うかどうか、行う場合はその旨を事前に伝えておくべきです。
請求書のフォーマットや提出期限、支払い手続きの流れなども明確にしておくことで、双方の経理担当者の負担を軽減し、スムーズな支払い処理を実現できます。
二次利用の条件詳細(期間・媒体・地域・肖像権・クレジット)
コンテンツの二次利用については、単に「二次利用可」とするだけでなく、その条件をできる限り詳細に定めることがトラブル回避の鍵です。
具体的には、「いつまで利用できるか(期間)」、「どの媒体で利用できるか(自社サイト、SNS広告、雑誌広告など)」、「どの地域で利用できるか(国内限定、全世界など)」を明記します。
また、インフルエンサー本人の顔が写っている場合は肖像権も関わるため、その利用許諾も明確に得る必要があります。
二次利用する際に、インフルエンサーのアカウント名などを記載する「クレジット表記」が必要かどうかも確認し、合意内容を契約書に盛り込むようにしましょう。
【法律編】インフルエンサーマーケティングで最も重要なステマ規制の注意点
インフルエンサーマーケティングを実施する上で、法律の遵守は絶対条件です。
特に、2023年10月に施行されたステルスマーケティング(ステマ)規制は、すべての広告主が理解しておくべき最重要事項です。
これに加えて、薬機法や著作権など、関連する様々な法律や各SNSプラットフォームの規約も正しく理解し、コンプライアンスを徹底したクリーンな施策運用を心がけましょう。
- 2023年10月から施行されたステマ規制(景品表示法)を遵守する
- 投稿には「#PR」「#広告」などの表記を必須とする
- 薬機法や著作権など関連する法律も確認する
- 各SNSの広告/プロモーションポリシー・表記ガイドの遵守
- 健康増進法・特定商取引法・未成年向け広告規制などの横断確認
- 著作権/肖像権/音源・フォント・ロケ地の権利処理
- 従業員・関係者の発信時の関係性開示(利害関係の明示)
2023年10月から施行されたステマ規制(景品表示法)を遵守する
2023年10月1日より、景品表示法においてステルスマーケティング(ステマ)が不当表示の対象として明確に禁止されました。
この規制では、企業(広告主)がインフルエンサーに依頼して商品やサービスを宣伝してもらう場合、それが「広告である」ことを消費者に明瞭に示さない投稿は違法となります。
重要なのは、規制の対象はインフルエンサーではなく、広告主である事業者自身であるという点です。
つまり、インフルエンサーがPR表記を忘れた場合、その責任は企業が負うことになります。
規制内容を正しく理解し、インフルエンサーへの指示を徹底することが不可欠です。
投稿には「#PR」「#広告」などの表記を必須とする
ステマ規制を遵守するため、インフルエンサーによるPR投稿には、それが広告であることを示すための明確な表示が義務付けられています。
消費者庁のガイドラインでは、「広告」「PR」「プロモーション」といった文言を、消費者が認識しやすい場所に、分かりやすく記載することが求められています。
例えば、Instagramのフィード投稿であれば、投稿の冒頭やハッシュタグの先頭に「#PR」と記載したり、プラットフォームが提供する「タイアップ投稿タグ」の機能を利用したりする方法が推奨されています。
大量のハッシュタグに埋もれさせるなど、意図的に分かりにくくする表示は不適切と見なされる可能性があるため、注意が必要です。
薬機法や著作権など関連する法律も確認する
インフルエンサーマーケティングでは、ステマ規制以外にも注意すべき法律があります。
特に、化粧品や健康食品、医薬品などを扱う場合は、効果効能を保証するような表現や、承認されていない効能を謳うことを禁じる「薬機法(旧・薬事法)」の遵守が必須です。
また、投稿に使用する画像や動画、BGMなどが第三者の著作権や肖像権を侵害していないかも確認が必要です。
インフルエンサーが作成したコンテンツであっても、権利侵害があった場合の責任は広告主にも及ぶ可能性があります。
自社の業界に関連する法規制を事前にリストアップし、遵守すべき事項をインフルエンサーに明確に伝えることが重要です。
各SNSの広告/プロモーションポリシー・表記ガイドの遵守
法律だけでなく、Instagram、X(旧Twitter)、YouTube、TikTokなど、各SNSプラットフォームが独自に定めている広告ポリシーやプロモーションに関するガイドラインも遵守する必要があります。
多くのプラットフォームでは、広告であることを明示するための専用機能(例:Instagramのタイアップ投稿ラベル)を提供しており、その利用を推奨または義務付けています。
これらのルールに違反した場合、投稿が削除されたり、アカウントが利用停止になったりするペナルティを受ける可能性があります。
プラットフォームの規約は随時更新されるため、施策を実施する前には必ず最新のガイドラインを確認し、それに従った運用を行うようにしましょう。
健康増進法・特定商取引法・未成年向け広告規制などの横断確認
扱う商材やターゲット層によっては、さらに注意すべき法律があります。
例えば、食品の栄養や健康効果について言及する場合は「健康増進法」に、ECサイトへ誘導し通信販売を行う場合は「特定商取引法」に関する表示義務に注意が必要です。
また、ターゲットが未成年者の場合は、彼らの判断力や経験の不足に配慮した広告表現が求められます。
自社の施策がどの法律に関連するのかを多角的に洗い出し、それぞれのリスクを横断的に確認する体制が不可欠です。
不明な点があれば、自己判断せず、法務部門や弁護士などの専門家に相談することが賢明です。
著作権/肖像権/音源・フォント・ロケ地の権利処理
クリエイティブ制作においては、権利関係のクリアランスが非常に重要です。
投稿に使用するBGMや効果音は、商用利用が許可された音源か、プラットフォームが提供するライブラリのものを使用する必要があります。
また、有料のフォントを使用する場合はライセンス契約を確認し、第三者が写り込んだ写真や動画を使用する場合はその人の許諾(肖像権のクリア)が必要です。
さらに、商業施設や私有地で撮影を行う場合は、事前の撮影許可が必須となります。
これらの権利処理を怠ると、後から権利者との間でトラブルになり、投稿の削除や損害賠償を請求されるリスクがあるため、制作プロセスにおいて徹底した確認が求められます。
従業員・関係者の発信時の関係性開示(利害関係の明示)
ステマ規制の観点から、インフルエンサーだけでなく、企業の従業員やその家族、子会社の社員などが自社の商品をSNSで紹介する場合も注意が必要です。
たとえ自発的な投稿であっても、企業との間に雇用関係などの利害関係がある場合、その関係性を明示しないと、消費者を欺く「なりすまし」型のステマと見なされる可能性があります。
そのため、従業員がSNSで自社製品について発信する際は、「#〇〇(社名)の社員です」といったように、会社との関係性をプロフィールや投稿文で開示するよう、社内ルールを定めて周知徹底することが重要です。
これは企業の透明性と信頼性を担保するために不可欠な取り組みです。
【運用編】投稿前後のオペレーションにおける注意点
企画と契約が完了したら、次はいよいよ施策の実行段階です。
この運用フェーズでは、インフルエンサーとの円滑なコミュニケーションと、投稿内容の細やかなチェックが成功の鍵を握ります。
投稿前の最終確認から、公開直後の反響モニタリング、そして定期的なレポーティングまで、スムーズなオペレーションを実現するための注意点を解説します。
- クリエイティブブリーフとトーン&マナー(Do/Don’t)の共有
- 投稿前チェックリスト(リンク/タグ/ハッシュタグ/PR表記)
- 初動48時間のモニタリングとコメントモデレーション方針
- ホワイトリスト/スパークアド等の有料拡張の可否と条件
- ソーシャルリスニングとレポート頻度(週次・月次)
クリエイティブブリーフとトーン&マナー(Do/Don’t)の共有
インフルエンサーにクリエイティブ制作を依頼する際は、企業の意図を正確に伝えるための「クリエイティブブリーフ」を用意しましょう。
ブリーフには、施策の目的、ターゲット、最も伝えたいメッセージ、訴求ポイントなどを記載します。
さらに、ブランドの世界観を維持するために、投稿のトーン&マナー(トンマナ)を具体的に共有することが重要です。
例えば、「必ず行ってほしいこと(Do)」として「清潔感を意識した写真」「商品の使用感を具体的にレビューする」などを挙げ、「避けてほしいこと(Don’t)」として「他社製品との過度な比較」「ネガティブな言葉の使用」などを明記します。
これにより、認識の齟齬を防ぎ、質の高いクリエイティブが期待できます。
投稿前チェックリスト(リンク/タグ/ハッシュタグ/PR表記)
インフルエンサーから投稿内容のドラフトが提出されたら、公開前に必ず最終チェックを行います。
その際、チェック漏れを防ぐために、事前にチェックリストを作成しておくと便利です。
リストには、「指定したURLのリンクは正しいか」「メンションするアカウント(タグ付け)に間違いはないか」「指定したハッシュタグはすべて含まれているか」「#PR などの広告表記は分かりやすく記載されているか」「薬機法などの法律に抵触する表現はないか」といった項目を盛り込みます。
複数人でダブルチェックを行う体制を整えることで、ヒューマンエラーを防ぎ、万全の状態で投稿を公開することができます。
初動48時間のモニタリングとコメントモデレーション方針
投稿が公開された直後の初動対応は非常に重要です。
特に公開後48時間は、ユーザーからの反応が最も集まりやすいため、コメント欄を注意深くモニタリングしましょう。
商品に関する質問コメントには、企業アカウントから迅速かつ丁寧に回答することで、他のユーザーの購買意欲を高めることができます。
一方で、誹謗中傷やスパム、誤情報を含むネガティブなコメントが投稿される可能性もあります。
どのようなコメントを削除または非表示にするのか、どのようなコメントに対して静観するのか、といった「コメントモデレーション方針」を事前に定めておき、迅速に対応できる体制を整えておくことが大切です。
ホワイトリスト/スパークアド等の有料拡張の可否と条件
インフルエンサーの投稿は、有料広告として配信することで、さらに多くのターゲット層にリーチを広げることができます。
これを実現するのが、Meta社の「ホワイトリスト広告(ブランドコンテンツ広告)」やTikTokの「Spark Ads」といった機能です。
これらの広告配信を行うには、インフルエンサーからの事前承認が必要となります。
施策の企画段階で、有料広告配信の可能性があるかどうかをインフルエンサーに伝え、許諾を得ておきましょう。
広告配信の期間や予算、クリエイティブの利用条件などを契約に含めておくことで、スムーズな広告運用が可能になります。
インフルエンサーのオーガニックな投稿を広告として活用することで、高い効果が期待できます。
ソーシャルリスニングとレポート頻度(週次・月次)
施策期間中は、インフルエンサーの投稿に対する直接的な反応だけでなく、SNS全体で自社ブランドや商品に関する言及がどのように変化したかを観測する「ソーシャルリスニング」も重要です。
専用ツールを用いて、ポジティブな口コミ(UGC)が増えたか、どのような文脈で語られているかなどを分析しましょう。
また、施策の進捗と成果を関係者で共有するため、定期的なレポーティングが不可欠です。
週次や月次など、レポートの頻度をあらかじめ決めておき、KPIの達成状況やユーザーからの反応、考察などをまとめて報告する体制を整えることで、PDCAサイクルを回しやすくなります。
インフルエンサーマーケティングにおける炎上リスクと具体的な注意点
インフルエンサーマーケティングは影響力が大きい分、常に炎上のリスクを伴います。
一度炎上が発生すると、ブランドイメージの著しい低下や売上の減少に繋がりかねません。
ここでは、炎上の火種となりうる要因を具体的に挙げ、リスクを未然に防ぐための対策と、万が一炎上が起きてしまった際の対応フローについて、事前に準備すべきことを解説します。
- インフルエンサーの過去のトラブルや炎上歴を調査する
- 誤解を招く不適切な表現や誇大広告を避ける
- ステルスマーケティングを疑われる行為は行わない
- 炎上が発生した際の対応フローを事前に準備する
- 問い合わせ・苦情の一次受けと広報/CSへのエスカレーションライン
- 誤情報や表記ミス発覚時の訂正・再投稿・返金対応の基準
- アカウント凍結/停止時のバックアッププラン(代替投稿・差替媒体)
インフルエンサーの過去のトラブルや炎上歴を調査する
炎上リスクを回避するための第一歩は、インフルエンサー選定段階での徹底したリサーチです。
起用を検討しているインフルエンサーが、過去に社会的な物議を醸す発言をしたり、何らかのトラブルで炎上したりした経歴がないかを、SNSや検索エンジン、報道などを通じて入念に調査しましょう。
当時は小さな問題だったとしても、企業の案件をきっかけに再燃する可能性があります。
インフルエンサーの言動は、そのまま起用した企業の姿勢と見なされることも少なくありません。
クリーンなイメージを持つインフルエンサーを選ぶことは、ブランドセーフティの観点から非常に重要です。
誤解を招く不適切な表現や誇大広告を避ける
投稿内容そのものが炎上の原因になるケースも多発しています。
特に、ジェンダー、人種、宗教、容姿などに関する差別的・偏見的な表現や、暴力的・性的なコンテンツは、たとえ意図的でなくても厳しく批判される対象となります。
また、「絶対に痩せる」「シミが完全に消える」といった、効果を過剰に約束する誇大広告は、景品表示法や薬機法に違反するだけでなく、消費者からの信頼を失い、炎上を引き起こします。
誰かを傷つけたり、誤解を与えたりする可能性のある表現はないか、客観的な視点で厳しくチェックし、誠実で誤りのない情報発信を徹底することが不可欠です。
ステルスマーケティングを疑われる行為は行わない
前述の通り、ステルスマーケティング(ステマ)は法律で禁止されていますが、法律違反にならなくても、「ステマではないか」と消費者に疑われること自体が大きなリスクです。
例えば、「#PR」の表記が大量のハッシュタグに紛れて見つけにくい、投稿の最後に申し訳程度に記載されている、といったケースは、隠そうとしている意図があると受け取られかねません。
また、インフルエンサーに「個人の感想です」と強調させつつ、実際には企業が内容を細かく指示している場合も、消費者を欺く行為と見なされます。
常に透明性を第一に考え、誰が見ても広告であることが明確にわかる、誠実な情報開示を心がけるべきです。
炎上が発生した際の対応フローを事前に準備する
どれだけ注意していても、炎上が起きてしまう可能性はゼロではありません。
そのため、万が一の事態に備え、事前に「クライシスコミュニケーションプラン(炎上対応フロー)」を準備しておくことが極めて重要です。
このプランには、炎上を発見した際の報告ルート、対応の意思決定者、事実確認の手順、インフルエンサー本人との連携方法、公式声明を発表する場合のタイミングや内容、SNSでの謝罪文のドラフトなどを具体的に定めておきます。
事前にフローを固めておくことで、パニックに陥ることなく、迅速かつ冷静な初期対応が可能となり、被害を最小限に食い止めることができます。
問い合わせ・苦情の一次受けと広報/CSへのエスカレーションライン
炎上が発生すると、企業の公式SNSアカウントやカスタマーサポート(CS)窓口に、多くの問い合わせや苦情が殺到することが予想されます。
現場の担当者が混乱しないよう、インフルエンサーの投稿に関する問い合わせの一次受け窓口をどこにするのか、どのような内容の問い合わせが来たら、どの部署(広報、法務、事業責任者など)にエスカレーション(報告・判断を仰ぐ)するのか、という情報伝達のルートを明確にしておきましょう。
関係者全員でこのエスカレーションラインを共有しておくことで、一貫性のある対応が可能となり、企業の対応が二転三転することによるさらなる炎上を防ぐことができます。
誤情報や表記ミス発覚時の訂正・再投稿・返金対応の基準
投稿内容に事実と異なる情報や、価格・スペックなどの表記ミスが見つかった場合の対応基準も事前に定めておくべきです。
軽微なミスであれば投稿の編集機能で修正するのか、それとも一度削除して訂正内容を明記した上で再投稿するのか、といった対応レベルをミスの重要度に応じて決めておきます。
特に、誤った情報によって消費者が不利益を被った場合(例:間違った価格情報を見て購入してしまった)、謝罪だけでなく返金などの補償対応が必要になることもあります。
インフルエンサーと企業のどちらがその責任と費用を負うのかも含め、契約段階で合意しておくことが、迅速な問題解決に繋がります。
アカウント凍結/停止時のバックアッププラン(代替投稿・差替媒体)
インフルエンサーのSNSアカウントは、プラットフォームの規約違反や何らかのトラブルにより、予告なく凍結・停止されるリスクがあります。
もし契約期間中にアカウントが使えなくなってしまった場合、予定していた投稿ができなくなり、施策全体が頓挫してしまいます。
このような事態に備え、バックアッププランを検討しておくことも重要です。
例えば、契約書に「アカウントが停止した場合、別のSNSアカウントでの代替投稿を依頼できる」といった条項を盛り込んだり、他のインフルエンサーに急遽依頼できるような体制を整えたりしておくことが考えられます。
リスクを想定し、代替案を準備しておくことで、被害を最小限に抑えることができます。
【運用後】インフルエンサーマーケティングの効果測定と改善に関する注意点
インフルエンサーマーケティングは、施策を実施して終わりではありません。
投稿後にその効果を正しく測定・分析し、得られた知見を次回の施策に活かすというPDCAサイクルを回すことが、長期的な成功に繋がります。
ここでは、事前に設定したKPIに基づいた定量的な評価から、売上への貢献度の可視化、そして将来の改善に繋げるための分析の注意点について解説します。
- 設定したKPIに基づいて定量的に効果を測定する
- リーチ数やエンゲージメント率、UGC数などを分析する
- 売上への貢献度を可能な範囲で可視化する
- 分析結果を次回の施策の改善に活かす
- インクリメンタリティ検証(A/B・PSA・地域差分など)
- ブランドリフト/検索リフト等の中間指標の設計
- UGCの二次活用と権利クリアランス/クレジット方針
- 短期(CPA/CVR)と長期(LTV/リピート)の指標バランス
設定したKPIに基づいて定量的に効果を測定する
効果測定は、施策開始前に設定したKPI(重要業績評価指標)に沿って行うことが基本です。
目的が「認知拡大」であればリーチ数やインプレッション数、「エンゲージメント向上」であればいいね数やコメント数、保存数、「サイト送客」であればURLクリック数などを計測します。
インフルエンサーから提供されるインサイトデータや、自社で設定したUTMパラメータ付きURLのアクセス解析データなどを用いて、これらの数値を収集・集計しましょう。
感覚的な「良かった・悪かった」で判断するのではなく、具体的な数値に基づいて定量的に評価することで、施策の成果を客観的に把握することができます。
リーチ数やエンゲージメント率、UGC数などを分析する
収集したデータをただ眺めるだけでなく、さらに踏み込んだ分析を行うことが重要です。
例えば、リーチ数に対してどれくらいの「いいね」がついたかを示すエンゲージメント率を算出することで、投稿の質を評価できます。
複数のインフルエンサーを起用した場合は、誰の投稿が最も高いエンゲージメント率を獲得したかを比較し、その要因(クリエイティブの切り口、投稿時間など)を考察します。
また、施策をきっかけに、一般のユーザーが自発的に商品に関する投稿(UGC:ユーザー生成コンテンツ)をどれだけ生み出してくれたかも重要な指標です。
UGCの数を計測することで、施策がどれだけ話題化し、口コミを喚起できたかを測ることができます。
売上への貢献度を可能な範囲で可視化する
インフルエンサーマーケティングの最終的なゴールを売上向上に置いている企業は多いでしょう。
売上への直接的な貢献度を測るためには、インフルエンサーごとに専用のクーポンコードやアフィリエイトリンクを発行する方法が有効です。
これにより、「誰の投稿経由で、いくらの売上があったのか」を直接的に計測できます。
直接的な計測が難しい場合でも、施策実施期間中の指名検索数の増加率や、ECサイトの新規セッション数の変化など、間接的な指標を分析することで、売上への貢献度をある程度推し量ることが可能です。
これらのデータを可視化し、投資対効果(ROI)を算出することが、施策の価値を社内で証明するために不可欠です。
分析結果を次回の施策の改善に活かす
効果測定と分析の最も重要な目的は、その結果を次回の施策に活かすことです。
今回の施策で「何が成功し、何が課題だったのか」を明確に言語化し、改善点をリストアップしましょう。
例えば、「Aさんの投稿はエンゲージメント率が高かったので、次回も同じような切り口のクリエイティブを依頼しよう」「Bさんのフォロワー層は想定よりも年齢層が高かったので、次回は別のインフルエンサーを検討しよう」といった具体的なアクションプランに繋げます。
このように、施策ごとに学びを蓄積し、PDCAサイクルを回し続けることで、インフルエンサーマーケティングの精度は着実に向上していきます。
インクリメンタリティ検証(A/B・PSA・地域差分など)
より高度な効果測定として、インクリメンタリティ(純増効果)を検証する方法があります。
これは、「もしインフルエンサーマーケティングを実施しなかった場合と比較して、どれだけ売上や認知度が上乗せされたか」を測る考え方です。
具体的な手法としては、クリエイティブの内容を変えて効果を比較する「A/Bテスト」、インフルエンサーの投稿に接触した人と接触していない人の意識変容を比較する「PSA(ブランドリフト調査)」、施策を実施した地域と実施していない地域の売上を比較する「地域差分テスト」などがあります。
これらの手法を用いることで、施策の真の価値をより正確に評価し、予算配分の最適化に繋げることができます。
ブランドリフト/検索リフト等の中間指標の設計
売上などの最終的な成果(KGI)だけでなく、そこに至るまでの中間指標の変化を捉えることも重要です。
「ブランドリフト調査」では、施策接触者と非接触者にアンケートを行い、「ブランド認知度」「好意度」「購買意欲」などがどれだけ向上したかを測定します。
これにより、ブランディングへの貢献度を可視化できます。
また、「検索リフト調査」では、施策期間中にGoogleなどの検索エンジンで、ブランド名や商品名の検索数がどれだけ増加したかを分析します。
これらの態度変容に関する指標を設計し、観測することで、施策が消費者のマインドにどのような影響を与えたのかを多角的に評価することが可能になります。
UGCの二次活用と権利クリアランス/クレジット方針
インフルエンサーマーケティングによって生まれた質の高い投稿や、一般ユーザーによる好意的なUGC(ユーザー生成コンテンツ)は、企業の貴重な資産です。
これらを広告クリエイティブや自社サイトのコンテンツとして二次活用することで、マーケティング効果をさらに高めることができます。
ただし、UGCを二次活用する際には、必ず投稿者本人から許諾を得る「権利クリアランス」が必要です。
無断で使用すると著作権や肖像権の侵害になります。
二次活用する際のクレジット(出典)表記の方法なども含め、社内で明確な運用方針を定めておくことが、トラブルを防ぎ、ユーザーとの良好な関係を築く上で重要です。
短期(CPA/CVR)と長期(LTV/リピート)の指標バランス
効果測定を行う際は、短期的な指標と長期的な指標のバランスを考慮することが大切です。
CPA(顧客獲得単価)やCVR(コンバージョン率)といった短期的な獲得効率も重要ですが、インフルエンサーマーケティングの真価は、ブランドへの共感や信頼を醸成し、長期的なファンを育成することにもあります。
そのため、施策を通じて獲得した顧客が、その後どれくらいの期間、どれくらいの頻度で商品を購入し続けてくれるかを示すLTV(顧客生涯価値)やリピート率といった長期的な視点での評価も取り入れるべきです。
短期的な売上だけを追い求めると、本質的なブランド価値の向上を見失う可能性があるため、注意が必要です。
【特殊ケース】施策タイプ別の注意点
一般的なタイアップ投稿以外にも、インフルエンサーマーケティングには様々な手法が存在します。
ライブ配信で商品を販売するライブコマース、専門的な知識が求められるB2B商材のPR、そして国境を越えた海外向けの施策など、特殊なケースではそれぞれ特有の注意点があります。
ここでは、代表的な特殊ケースにおける留意点を解説します。
- ライブコマース/EC連携(在庫・配送・返品・CSの連動)
- B2B/高関与商材の留意点(検討期間・説明責任)
- 海外/越境・多言語案件(法令・税・送金・時差・文化差)
ライブコマース/EC連携(在庫・配送・返品・CSの連動)
ライブコマースは、インフルエンサーがライブ配信で商品をリアルタイムに紹介・販売する手法です。
視聴者と双方向のコミュニケーションが取れるため、高いコンバージョン率が期待できます。
注意点としては、配信中に注文が殺到することによるECサイトのサーバーダウン対策や、十分な在庫の確保が不可欠です。
また、注文後のスムーズな配送、返品・交換への対応、視聴者からの問い合わせに迅速に答えるカスタマーサポート(CS)体制など、バックエンド業務との緊密な連携が施策の成否を分けます。
インフルエンサーには、事前に商品知識を深めてもらい、視聴者の質問に的確に答えられるよう準備をしてもらうことも重要です。
B2B/高関与商材の留意点(検討期間・説明責任)
B2C(消費者向け)だけでなく、B2B(法人向け)の製品やサービスでもインフルエンサーマーケティングは有効です。
その際、起用するのは特定の業界に精通した専門家や、ビジネスリーダーといったインフルエンサーになります。
B2B商材や、住宅・金融商品などの高関与商材は、消費者が購入を決めるまでの検討期間が長く、論理的な情報収集が重視される傾向があります。
そのため、インフルエンサーには、製品の機能や導入メリット、専門的な知見などを、信頼性高く、分かりやすく解説してもらう必要があります。
短期的なコンバージョンよりも、見込み顧客の育成や、企業の専門性を示すことを目的とした、長期的な視点でのコンテンツ企画が求められます。
海外/越境・多言語案件(法令・税・送金・時差・文化差)
海外のインフルエンサーを起用し、越境でマーケティングを行う際には、多くの注意点が存在します。
まず、その国の広告関連法規(ステマ規制など)や税制を遵守する必要があります。
報酬の支払いに関しても、海外送金の手続きや為替レートの変動を考慮しなければなりません。
また、コミュニケーションにおける時差や言語の壁はもちろんのこと、宗教や文化的背景、国民性への深い理解が不可欠です。
日本では問題なくても、その国ではタブーとされる表現や習慣があるかもしれません。
現地の文化に精通したパートナーと連携するなど、細心の注意を払って施策を進める必要があります。
まとめ
インフルエンサーマーケティングを成功させるためには、企画から運用、効果測定に至るまで、各フェーズで注意すべき点を網羅的に理解し、丁寧に対策を講じることが不可欠です。
目的の明確化、法令遵守、そして何よりもインフルエンサーと生活者への誠実な姿勢が、施策の土台となります。
本記事で解説した注意点をチェックリストとして活用し、リスクを管理しながら、インフルエンサーマーケティングの効果を最大化させてください。